『貧困のない世界を創る』

ムハマド・ユヌスの著作。
2006年のノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の総裁です。


「ほとんどすべての社会的、経済的な世界の諸問題は、ソーシャルビジネスで立ち向かえる」


本書は、バングラディッシュの貧困撲滅のために、
著者がどのような仕組みを築き上げてきたのかを解説しています。


「貧しい人々」に無担保でお金を貸すマイクロクレジットからはじまり、
伝統産業の復活、起業家支援、エネルギー供給支援、インターネットサービス、
携帯電話サービス(グラミン・フォン)、奨学金サービス、投資マネジメント、
ヘルスケアサービスなどなど、投資回収を基本としたソーシャルビジネスとして展開していく。

投資された資本が回収されるから事業展開が可能で、持続していく。


そして、世界的な企業である「ダノン」との合弁会社設立「グラミンダノン」。
「日常的においしくて栄養価の高い食物や飲み物を入手できるようにする」
というのがこの会社の目標。


「グラミン・ダノン」のしくみが面白い。「ユニークな近接ビジネスモデル」
大きな工場をつくるのではなく、小さな工場をたくさんつくりコミュニティと協力して運営していく。


ミルクの仕入れは地元の酪農家から、流通は地元の女性を「グラミン・ダノン・レディー」として採用し、
ヨーグルトを販売する店、家々を結ぶ。

酪農家グラミン銀行から小口融資を受ける。


工場が稼動しビジネスが回ると、コミュニティが潤う。
「金銭的利益より社会的便益を最大にするように設計された会社」



その他読んでいて、茂木健一郎さんのいうドーパミンが噴出するようなことが
ぎっちりと書かれていて、今にも走り出しそうな衝動に駆られますが、
そこにきて、本書は解説に留まらず、貧困撲滅を含め、よりよい社会をつくるために、
私たちに行動しようと問いかけます。


都市計画であれば、疲弊した地方をどのように再生するのか。


ソーシャルビジネスは、通常のビジネスと全く同じ仕組みです。
投資したお金を回収する。回収することで次の投資ができる。


中心市街地活性化法に沿っていろんなところで、補助金を使っています。
これまでもいろいろな補助金を仕立ててきました。
今も使う準備をしています。大津、丹波、伊賀。


でも、そもそも補助金ではソーシャルビジネスに成り得ないのではないか、
とも思います。


これは財務・会計上の話になりますが、補助金で投資した場合、補助金分は減価償却が認められない。
いわゆる圧縮記帳という取り決めで、例えば1億円の投資で1/2の補助金である場合、
5,000万円は減価償却できないのです。


つまり5,000万円を減価償却することになるので、仮に償却期間を10年とすれば、
補助金がなければ年間1,000万円の償却が可能なところを、年間500万円しか償却できません。


支出が減り一見良さそうですが、利益が余分(?)に出るので税金がかかります。


減価償却は経費扱いで法人税がかからないので、そのままキャッシュフローとなります。
しかし、1/2の補助金をもらうとキャッシュフローが半減するということです。
しかも、税引き前利益が大きくなるので税金が多くかかる。


そのことが意味するのは、投資した資金を回収するのがとても困難なビジネスに
必然的になってしまう、ということです。


資金が回収しにくいということは、次の投資が難しいということ。
持続性が無くなってしまうのです。



地域を理解しないお上からお金を頂くのは、無駄の多い、相当の根性と忍耐が
必要で、補助金を使うのはひと苦労です。


そうやって得た補助金にも関わらずソーシャルビジネスには成り得ない
なんて、などと考えてしまいます。


補助金を出す側の論理も含め、持続可能性の低くなる仕組みは
疲弊した地方を救うことが出来ないのかもしれません。


大阪の枚方宿では新しい仕組みを模索しています。
地域のお金でファンドビジネスをしたいと思っています。
地権者と市民と、そして起業者の協力で地域を活性化させる仕組みです。


国も、地方の支援に対しては、まやかしのような補助金スキームから脱却しなければ、
本気でものを考える人が増えれば増えるほど、その支援の存在意義が問われるときが来ると思います。


もう少し。

ユヌスは、資本主義の概念的な失敗についても指摘する。

貧困が存在するのは概念の失敗、人間の本質を捉えることについて失敗していると。
「人間は消して一元的な存在ではない」
「利益追求こそが、人類に幸福をもたらす最も良い方法である
 という理論に説き伏せられている」
「必ずしもすべてのビジネスが利益を最大化するという
 ただ一つの目的を目指すことを強いられているわけではない」